戦闘地域から毎日、破壊された建物や逃げ惑う人々のニュースが流れてくる。人間の命と資源を何と無駄にしていることかと思う。勇ましく命令を下す側は後方にいて「自分たちの平和のため」という大義で人と街を攻撃するのだろう。そんな権力者と世の大勢に1人の人間が抗うのは難しい。だが無言ではなく異を唱え続けることに希望は見いだせるだろうか。
イラストや詩でファシズムに抵抗した画家でエッセイストのヨゼフ・チャペックの作品を収める「独裁者のブーツ イラストは抵抗する」(増田幸弘、増田集編訳)に注目したい。
作家、劇作家として知られる弟のカレルとともに、ヨゼフは1921年から「リドヴェー・ノヴィニ(人民新聞)」という新聞社で働いた。隣国ドイツがナチス政権となり、戦争に突き進む濁流の中、ヨゼフは同紙に描いたカリカチュア(風刺画)のモチーフに黒いブーツを用いた。読者が独裁者のことだと受け取るのは難しくなかっただろう。
はいている人物が描かれていない黒いブーツが群衆の頭や町を踏みつけ、弾薬の上で得意げなポーズを取り、壇上から配下のブーツの隊列を見下ろす。そんな一コマ一コマをめくっていると、暴力、強権、非情、独善...