戦後、フィリピンの日本人戦犯の助命に尽力した安来市出身の画家、加納莞蕾(かんらい)(本名・辰夫、1904~77年)の生誕120年を記念した企画展が、同市広瀬町布部の加納美術館で開かれている。恒久平和という“1枚の絵”を描き続けた莞蕾の足跡をたどっている。12月23日まで。
莞蕾は「赦(ゆる)し難きを赦す」の恒久平和への願いを込め、戦後の49年からフィリピンのキリノ大統領らに約250通の書簡を送り、日本人戦犯の助命を嘆願。キリノは日本兵に妻子4人の命を奪われたにもかかわらず、「自分の子孫や国民に、我々(われわれ)の友となり、我(わ)が国に末永く恩恵をもたらすであろう日本人に対する憎悪の念を残さない」として53年7月に特赦を発表、戦犯105人を釈放した。
企画展でひときわ目を引く「風陵渡(ふうりょうと)高地占領」(複製画)は、従軍画家として日中戦争を描いた莞蕾唯一の戦争記録画で、平和活動の原点となった作品。後に莞蕾は「お互い憎しみのないものを殺し合わなきゃならない点はどういうわけだろうか」と語り、戦争に疑問を投げかけた絵だったことを明かした。
戦犯釈放後も、莞蕾はキリノの赦免の真意を問い続け、恒久平和を次代につなげようと村長の立場などから、「世界児童憲章」の制定を提唱する。没後、平和への願いは加納家とキリノ家に受け継がれている。
千葉潮館長は「芸術家だからこそ国境も宗教も超えることができる。莞蕾が戦後取り組んできた活動は1枚の絵だった。今こそ求められる『赦し難きを赦す』を実際に実行した人たちがいる」と強調した。
◇企画展「人間、加納莞蕾」は12月23日まで。初公開の作品6点を含む油彩、墨彩画など31点(本館)を展示。北栄町出身の画家・前田寛治と交流を深めた若き日の作品もある。莞蕾の従軍体験と平和思想について、島根大名誉教授の竹永三男氏が12月8日午後1時半から隣の布部交流センターで講演する。