「造本装幀コン」最高賞 精神科医大竹さんの自費出版随筆集 凝った装丁、国内外で評価

 松江市在住の精神科医・大竹民子さんが自費出版した随筆集「海の庭」(国書刊行会)が日本書籍出版協会の「第56回造本装幀(そうてい)コンクール」で最高賞の文部科学大臣賞を受賞した。さらにフランスのデザイン賞「DNA Paris Desighn Awards2023」グラフィックデザイン部門のエディトリアル部門でも入賞。凝った装丁が国内外で高く評価された。

 同コンクールでは、応募のあった159社315点の中から大臣賞に選ばれた。「-Award」は毎年パリで開かれており、グラフィック、プロダクトなど5分野から最高のデザイナーを表彰する。

 大竹さんは鳥取大医学部在学中に文学同好会に所属し、同人誌を製作。卒業後は松江市内で心療内科を開業しながら、文学への愛情と本作りへの思いを温めていた。2020年に最初の随筆集「からころ」を出版し、夢を実現した。

 2作目の「海の庭」は22年に出版。表題話では、自宅前の中海に、ヘビが水中を泳ぐような潮目が突如出現した様子を友人が「龍安寺(京都市)の石庭のようだね」と言ったことから、山陰の風景と石庭の共通性、自然の移ろいの美に思いを巡らせる。

 装丁を手がけたのはグラフィックデザイナーの泉屋宏樹さん(48)=大阪市。泉屋さんは47回の同コンクールで入賞した「絵本化鳥」(泉鏡花原作)の装丁も担当し、それを見た大竹さんが制作を依頼した。

 表紙のデザインは龍安寺の石庭の縮尺をイメージした。石庭を上から見た配置と実際に横から見た時の印象を掛け合わせ、石を三つに省略して表現。石庭の波紋を熱型押し加工することにより、光を透かすと色が変わるように工夫した。

 書家の上田普さんが題字を書き、乳白色の薄紙を使ったカバーに上田さんの墨滴をデザインした。墨滴をカバーの表と裏に描くことで、水滴が本の内部に染み渡っているイメージを表した。

 泉屋さんは「遊び心を本の立体の中に取り入れてみたかった。多くの人に手に取ってもらい、本をめくる楽しみを感じてもらえたらうれしい」と話した。

 大竹さんは「利便性が追求され、物が消費される世の中で、大切に持ち続けることができるものを作りたかった。書くことも大切だが、本をどう作るかということも大切だと思った」と受賞を喜ぶ。

この機能はプレミアム会員限定です。
クリップした記事でチェック!
あなただけのクリップした記事が作れます。
プレミアム会員に登録する ログインの方はこちら

トップニュース

同じカテゴリーの記事