28日に開館記念式典が行われた鳥取県立美術館(県美)。当初計画の白紙化や自治体間での誘致合戦などの曲折をたどり、約30年を経て県民待望の美術館がオープンする。新たな文化・芸術拠点の誕生に関係者は歓喜し、多方面での波及効果に期待した。
論争に終止符
「きょうで美術館論争に終止符が打たれる」-。式典後の会見で安堵の表情を見せた平井伸治知事。美術館は1996年に鳥取市内での整備が一度は決まったが、99年の片山県政時に計画が白紙に。2014年ごろに整備構想が新たに仕切り直しで始動すると、自治体間で誘致合戦が勃発したことを踏まえ、平井知事は「今後は交流・にぎわいの場にすることが大事」と県下一体でもり立てる必要性を強調した。
息巻く地元
お膝元となる倉吉市は歓迎ムード一色に染まる。広田一恭市長は、県東西部に開発が集中し、立ち遅れていた中部が「ひょうたん県政」と呼ばれた時代を回想。「県美開館で東中西部に“横串”が入った。輝く鳥取県を一体となって発信したい」と語り、県美を核にした観光誘客増を息巻く。河越行夫倉吉商工会議所会頭も「来館者が鑑賞後にまちを巡ってもらい、消費拡大につながればいい」と地域経済に好循環をもたらす“県美効果”に期待する。
育成の場
文化・芸術関係者も喜びと期待に包まれている。境港市出身の漫画家水木しげるさん(故人)の長女、原口尚子さんは、水木作品が収蔵・展示されていることに「漫画をエンターテインメントではなく、芸術として捉えてもらえたことがうれしい」と喜び、「まんが王国鳥取」らしい漫画文化の発信を願う。柴山抱海県書道連合会長は「県民がいろんなことを学べる素晴らしい美術館」と評価した上で、「発表の場としていかに活用するか。今後は作家を育てていくことも必要になる」と課題を指摘する。
根鈴輝雄倉吉博物館長は話題となった「ブリロの箱」を「美術館の名を全国に知らしめた立役者」と表現。「開館を契機に倉吉に関心を持った人へ、まちの文化や歴史を伝える役割を果たしたい」と相乗効果の発揮を誓った。