【名作文学と音楽(17)】オペラハウスの人間模様

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 フランソワーズ・サガンがオペラにも関心が深かったことは、前回の末尾に少し触れておいた。短編小説『絹の瞳』(1975年刊行の同名作品集所収)に出てくるのは、プッチーニの『トスカ』である。このオペラは美貌の歌姫トスカ、彼女の恋人で画家のカヴァラドッシ、トスカに邪恋を抱く警視総監スカルピアを軸に展開する。邪魔者にされたカヴァラドッシは銃殺刑に処され、スカルピアを刺し殺したトスカは自ら命を絶った。

 小説の方の登場人物は、狩猟好きのジェロームと妻のモニカ、夫妻の友人で女たらしのスタニスラスにほぼ絞られる。スタニスラスは当然女連れで、ベティーというのが彼女の名前だが、さほど重要な役は振られていない。

 その4人がパリからドイツまで羚羊(カモシカ)を撃ちに行く。飛行機の中でスタニスラスはモニカに小声でささやいた。「ぼくはきみが欲しいんだ、ねえ、なんとかうまくチャンスをつくってくれない?」(朝吹登水子訳・新潮文庫、以下同)

 ミュンヘンから狩猟小屋までは、ジェロームが車を運転した。モニカの勧めで車に酔いやすいベティーが助手席に座り、後部座席にモニカとスタニスラスが並んだ。ベティーは眠り、ジェロームが後ろ...

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