今月はフィドルに目を向けてみたい――と言ったら、そのフィドルっていうのは何だ?という質問が飛んできそうだ。大まかには、ヴァイオリンの別名と考えればよい。ただし、主に民俗音楽の分野で使われる言葉で、クラシックの方では基本的に言わない。前回取り上げた『アコーディオンの罪』でも、ルイジアナのフランス系音楽<ケイジャン>との絡みで出てきた。
最近は耳にすることも増えたが、なじみが薄かったころは、<fiddle>を英語から日本語に訳すときに<ヴァイオリン>としたケースが多い。例えば『フィドラー・オン・ザ・ルーフ』が『屋根の上のヴァイオリン弾き』になったように。
舞台と映画で人気を博したこのミュージカルのタイトルは、プロローグで主人公テヴィエがウクライナの寒村で暮らす自分たちユダヤ人を<屋根の上のフィドル弾き>に喩えた台詞と結びつく。屋根から落ちて首を折らないようバランスを取りながら、シンプルで楽しい曲を掻き鳴らす――。苦労は尽きないが、伝統を守って生活を立て、小さな喜びもあるということか。ちなみに映画のサウンドトラックでは、村の楽師などではなく、巨匠ヴァイオリニストのアイザック・スターンが『サ...