【名作文学と音楽(29)】門柱さえも胸を疼かせた

トマス・ハーディ『リール舞曲をひくフィドル弾き』ほか

  •  
  •  『屋根の上のヴァイオリン弾き』のサウンドトラック盤
  •  

 今月はフィドルに目を向けてみたい――と言ったら、そのフィドルっていうのは何だ?という質問が飛んできそうだ。大まかには、ヴァイオリンの別名と考えればよい。ただし、主に民俗音楽の分野で使われる言葉で、クラシックの方では基本的に言わない。前回取り上げた『アコーディオンの罪』でも、ルイジアナのフランス系音楽<ケイジャン>との絡みで出てきた。

 最近は耳にすることも増えたが、なじみが薄かったころは、<fiddle>を英語から日本語に訳すときに<ヴァイオリン>としたケースが多い。例えば『フィドラー・オン・ザ・ルーフ』が『屋根の上のヴァイオリン弾き』になったように。

 舞台と映画で人気を博したこのミュージカルのタイトルは、プロローグで主人公テヴィエがウクライナの寒村で暮らす自分たちユダヤ人を<屋根の上のフィドル弾き>に喩えた台詞と結びつく。屋根から落ちて首を折らないようバランスを取りながら、シンプルで楽しい曲を掻き鳴らす――。苦労は尽きないが、伝統を守って生活を立て、小さな喜びもあるということか。ちなみに映画のサウンドトラックでは、村の楽師などではなく、巨匠ヴァイオリニストのアイザック・スターンが『サ...

残り 4631 文字
このページは会員限定コンテンツです。
会員登録すると続きをご覧いただけます。
無料会員に登録する
会員プランを見る
会員登録済みの方
この機能はプレミアム会員限定です。
クリップした記事でチェック!
あなただけのクリップした記事が作れます。
プレミアム会員に登録する ログインの方はこちら

トップニュース

同じカテゴリーの記事