【逍遥の記(24)】隔絶された時間と場所で自我と向き合う作家

 村上春樹国際シンポと「八月の庵」

  •  村上春樹国際シンポジウムの参加者たち=2024年7月13日、東京都新宿区の早稲田大学
  •  村上春樹国際シンポジウム2日目は四つのセッションに分かれて議論した=2024年7月14日、東京都新宿区の早稲田大学
  •  早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)を見学するシンポジウムの参加者
  •  早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)を見学するシンポジウムの参加者

 東京の早稲田大学で7月13日と14日の2日間にわたって開催された「2024年第13回村上春樹国際シンポジウム」(台湾・淡江大学村上春樹研究センター主催)のテーマは「村上春樹文学におけるウェイ・オブ・ライフ」だった。

 うん? なんだろう。「ウェイ・オブ・ライフ」という言葉は「生き方」と訳せばいいのだろうか。村上文学には少し似合わない気がして戸惑った。「ライフスタイル」という方がしっくりくるように思える。かすかな違和感を抱きつつ、講演や発表、議論を聞いた。

 ■死とは変形された生

 「ウェイ・オブ・ライフ」という言葉がどこからきているのかはすぐに分かった。初日の朝、会場で購入した「予稿集」に説明が載っていたのだ。

 村上が「風の歌を聴け」で群像新人文学賞を受賞しデビューした1979年から2年後、雑誌「太陽」(81年10月号)に掲載しながらも、その後は単行本に収録されることのなかった「八月の庵 僕の『方丈記』体験」というエッセーに出てくる。

 未読だったので、シンポジウムを取材した後でこのエッセーを入手した。

 「小学生の頃、父親に連れられて琵琶湖の近くにある芭蕉の庵を訪れたことがある」という文章で...

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