大学時代に受けた入社試験で、「海」をテーマにした作文があった。童謡の歌詞「海は広いな大きいな」を引用しながら、少ない体験を頼りに海への思いを書きなぐった覚えがある。読むに堪えない仕上がりだっただろう◆今なら、多視点でいくつか短時間で書き上げられそうだ。それもこれも、長年にわたり週1回小欄のコラムを担当し、あらゆる“お題”を調理してきたからだろう。逸品は数えるほどしかないが、ありがたい経験となった◆コラムは、書き手の人物像が立ち上がってこそ面白い。しかし、まさにきょう書く理由が必要で、読み手に何かをもたらす内容でなければならない。お題が決まれば後は早いが、それを決めるのには難儀した◆時には田舎の父に畑の“旬”を教えてもらったり、取材で体験し報道記事には盛り込まなかった思いを書いたり、子育ての苦労を吐露したり。いよいよ困れば「今日は何の日」にこじつけたこともしばしばあった◆毎回、その時々の精いっぱいを“発表”させていただいてきた。そしてこれが最後の執筆となる。書き上げてはすぐ次のお題に思考を巡らす日々が終わり、さぞやほっとするかと思いきや、いやに寂しい。20余年地元紙の記者として存在できた幸運をかみしめている。(斎)