半世紀以上前の1972年春、毎日新聞東京政治部の西山太吉記者(今年2月、91歳で死去)が外務省女性事務官と共に逮捕された。沖縄返還に伴う日米密約スクープにまつわる国家公務員法違反容疑だった◆筆者はちょうど同社の新入社員として研修時期だったので、事件が「ひそかに情を通じた」ことによる大醜聞に発展し動揺した。先輩記者が当時吹き荒れていた中国・文化大革命の毛沢東によるスローガン「造反有理」という言葉を教えてくれた◆「支配側に逆らうのは、それなりの理由がある」という意味で、以来「けっして新聞記者は、体制におもねってはならぬ。弱きを助け、強きをくじく」を仕事に取り組む構えとして腹をくくった◆政治家や官僚に近づく政治部、財界相手の経済部をあえて避け、事件事故の社会部、大衆娯楽の運動部と学芸部を次々回り、権力と支配の層とは最後まで無縁の記者生活。それも大阪日日新聞の休刊と共についに終了だ◆時は流れ、ネット社会が発達。新聞雑誌はおろかテレビラジオも時代遅れメディアへ。苦しくても、強い組織の広報・宣伝からの提供情報を安直に二次使用するだけではメディア自体が死に至る。時々、権力側を慌てさせてこその存在価値と忘れてはならぬ。(畑)