懸念材料 増すばかり 大阪IR誘致 揺らぐ収益、高まるリスク

 大阪府・市が誘致を進めるカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)を巡って、収益の根拠が揺らいでいる上、リスクも高まっている。オンラインカジノの台頭による地上型カジノの経営環境悪化とギャンブル依存症の深刻化に加え、中国の規制強化で富裕層顧客が激減。大阪市は会場となる大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)の土地改良費用で788億円という巨額の債務を負担するが、運営事業者の「大阪IR」は開業するかどうかを決める期限を9月末まで延期した。政府は4月に府・市が申請していた整備計画を認定したが、開業に必要な実施協定を前に懸念材料は増えるばかりだ。

皮算用

 3月にマカオを訪れた静岡大の鳥畑与一教授によると、「マカオの富裕層向けカジノはがらがらだった」。2013年に452億ドルあったマカオのカジノ収益は22年には53億ドルまで減少。中国の規制強化の影響で、海外でギャンブルをする富裕層が激減しており、マカオ政府はIR事業者に「脱ギャンブル」「脱中国」「脱富裕層」を要求。六つの事業者が提出したのは9割以上をカジノ以外に投資する計画だ。

 収益の8割をカジノに頼る「大阪IR」の計画は環境変化に対応できておらず、鳥畑教授は年間売り上げ5200億円(うちカジノ4200億円)、自治体への納付金1060億円は「捕らぬたぬきの皮算用」と指摘する。

不透明な地盤問題

 一方で、夢洲の地盤問題は不透明さを増している。府・市と「大阪IR」が結んでいた基本協定で、事業者側が解除できる当初の期限は7月13日。実施協定を結ぶまで、事業者側が撤退できる選択肢を残すための手続きだが、9月末まで延期した。計画で29年秋~冬としていた開業時期は、「大阪IR」の中核であるMGMリゾーツ・インターナショナルが30年1~6月という見通しを示している。

 府・市と事業者での合意があいまいな事項に地盤沈下対策の費用分担がある。土地改良費用の788億円には地盤沈下対策が含まれておらず、大阪市の担当者は「市が使用した埋め立て剤が原因で通常の想定を著しく上回る大規模な地盤沈下や陥没が生じた場合を除いて、市が費用負担を行わないことを前提としている」とし、事業者側は「過去の沈下計測のデータが不足しており、今後の調査結果により、課題が出てきた場合は対応を見極める必要がある」とかみ合っていない。

 関係者によると、事業者は地盤沈下の調査は実施済みだが、結果については検討中。吉村洋文知事は19日の記者会見で、地盤沈下の費用負担を「大きな方向性が変わることはない」とし、市による788億円以上の債務負担を否定した。

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