OSK愛奏曲選最終章 ~100年の歴史つなぎ、新世紀へ

 100周年の祝祭感に包まれた1年を経て、また新たな100年に向け力強く前進するOSK日本歌劇団。約20年前の解散の危機をはじめ、あまたの苦難に直面しながらも決して歩みを止めず歴史をつないできた。新世紀を迎えたOSKの先頭に立つトップスター楊琳、娘役トップスター舞美りらと千咲えみ、躍進めざましい男役スター翼和希が思う、OSKの現在地、そして目指す未来とは-。

節目の1年を振り返って 

 -100周年は2022年2月の大阪松竹座公演からスタート。しかし初日から中止になり、たった3日間の上演になった。

   1月30日に100周年の記念式典をさせていただき安心したのですが、その後新型コロナウイルスの感染者が多数発生し、公演できなくなってしまった。ひと言でいうとショックでしたが、早く元気になって公演できるように、お稽古したものは自分たちの中にとっておいて、お見せするときに後悔のないようにと万全を期しました。語弊があるかもしれませんが、(順調にいかないところが)OSKらしいなとも思いました。何事にもくじけないで、めげないで歩んできた歴史を生かして、今回もみんなで乗り越えられたなと。

 -7月の京都南座「レビューin Kyoto」の第1部「ミュージカルロマン 陰陽師」では、舞美さんと千咲さんは茨姫役にWキャストで臨んだ。

 舞美  役代わりに憧れを持っていたので、お芝居でさせていただきとってもうれしかったです。演じている時よりも演じていない時の方が客観的に作品を見ることができ、自分が作品の中でどういう役割をしていかなければいけないのかと考える時間があり、研究させていただけ本当にありがたい経験になりました。

 千咲  難しかったですが、先生に「舞美さんが演じられる茨姫と全く別のものでいい」と言っていただき、変えようと思わず自然に別のものになったと思います。とても新鮮でした。

 -9月には創立100周年記念コンサートを、100年前に試演公演した大阪市中央公会堂で行った。

   初めてオーケストラで歌わせていただき、大変ぜいたくな時間でした。お客さまが本当に喜んでくださり、私たちも研修生を含めて全員で立たせていただけたので本当にうれしかったです。まさにOSKが始まった場所に100年後に立てることは大変感慨深くて、100周年ってすごいんだなって改めて感じました。

 -秋の福井県越前市での「たけふレビュー」では翼さんが初座長に。

   真ん中に立つのは見ているのとは全然違い、今まで知らなかったお役目もたくさんさせていただき、先輩方をますます尊敬しました。毎日公演できることが当たり前じゃないと身にしみて感じていたので、無事に1カ月公演ができてほっとしました。生まれ育った大阪府枚方市でも凱旋(がいせん)公演ができ、地元の方もすごく喜んでくださり本当にうれしかったです。

 -11月には楊さん主演の「五右衛門」で、久しぶりのお芝居を。

   コロナ禍で自分たちの公演をなかなか打てず、お芝居は初めてという劇団員も多くてどうなるか心配でした。でも、麻咲梨乃先生(脚本・演出・振付)が手取り足取り一から熱くご指導くださった。ダンスも歌もお芝居だと思っていて、劇団員として役者として大切な基礎になる。お芝居の作品は定期的にこれからもどんどんやっていき、みんなにも経験してほしいなと思います。

101年目、追い風に乗って 

 -今月14~17日は行政の共催も得て、クールジャパンパーク大阪で日舞と洋舞の2本立て公演が実現。

 千咲  日舞レビューはチョンパから始まって民謡があって古典的な場面があって、本格的なお着物もカツラも着けて、という自分が憧れたOSKのショーができたなと。本当に幸せで充実した4日間でした。

 舞美  歴代のトップスターさんがたくさん見てくださっていて、つないできてくださった歴史の一部になれているんだなと思ったら感慨深かったです。2025年の大阪・関西万博を盛り上げていく一員になれているのかな、ならなきゃいけないなと思う公演でした。

   日舞は出ているか着替えているかで、一手間違えたら出られない早替えの連続でした。お稽古場で通した時は一度も出られなかったのに、本番はお衣装さん、床山さんはじめいろんな方のご協力をいただき間に合いました。あらためて舞台は一人ではできない、総合芸術のたまものだなって思いました。客席降りもたくさんさせていただき、間近でお客さまの笑顔や活気を浴びることができました。

 -翼さんは8月(25~28日、近鉄アート館)、「へぼ侍~西南戦争物語」公演が控えています。

   演じる志方錬一郎が原作(坂上泉「へぼ侍」)の中でも作品の中でも「へぼ侍って言わせへん」って叫びますが、「へぼ侍で何が悪いねん」って思えるくらい愛着があります。へぼ侍なりの錬一郎の戦い方がとっても大好きで、大阪商人の知恵を生かして西南戦争に挑むという新しい視点が面白いなと。原作があるものをさせていただくのは初めてなので、その世界観を大事にしながら脚本・演出の戸部和久先生のご指導を体当たりで受けていきたいです。

 -今秋放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」にヒロインの先輩役として出演。

   出演者の方はもちろんスタッフの方々も一流の表現者。舞台で活躍している大先輩もたくさんいて、舞台とテレビのお芝居の違いなどお話をうかがえ、OSKの舞台でもお芝居のリアリティーさにつなげるヒントをいただけました。

 また、先輩方が歩まれてきた歴史を追体験できて、こんな激動の時代をOSKは歩んできて、それを乗り越えてきた強さがOSKの魅力といわれる生命力につながっていくのかなと。歴史を知れば知るほど劇団に対する愛情も深まったし、次の100年につなげていきたいという思いを強くしました。

 -なんばパークス8階「WAKUPAKU」でトークと料理、そしてショーを披露する新しい取り組みも。

   まさかお客さまに包丁を握る姿を見ていただくとは!舞台に立っている以外の自分たちの姿を見ていただくのは珍しく、お客さまも意外に喜んでくださっていて、挑戦してみて良かったなと。

 OSKの存在をさらに広く知ってもらうために「TikTok」も新たに始めました。万博に向けて大阪に来る外国の方も増えてくると思うので、インバウンドの公演を強化し、世界に向けて日本のレビュー文化を発信していきたいです。レビューには言語の壁がないので、外国の方々にも劇場で楽しんでもらえるはずです。

今を生きるスターとして 

 -それぞれ入団から10年余り。どんな日々でしたか。

   元々人の前で何かするのは苦手だったのに、歌劇をやりたいと急に思い立って、がむしゃらにやってきたら今につながりました。あの時やってきた努力が今こうしてつながっているのかな、あの時頂いたお叱りの言葉は今これを知るためにあったのかなとか、無駄な努力はないなと。今やっと視界が開いてきた感覚があります。

 千咲  目指した時から夢を持って入りたいと思って、入った後も決して夢がかなって終わりじゃなくずっと新たな夢ができていて、演じてみたいとかこうしてみたいとか、常に毎回夢が更新されていきます。自分が見たことがない世界を見ることができる場所だと思います。

 舞美  初めて歌劇の世界に踏み出した時、好きなだけじゃだめなんだ、何事にも基礎がいるんだと思い知りました。人様に何かお届けするまでには見えない部分の努力が必要で、上級生や作品についていくために毎日必死で、でも初日は必ずやってきます。ベストを尽くした状態で舞台に立ってはいますが、納得できたことは1ミリもありません。次にはちょっとでも理想の自分に近づきたいという思いでやっています。

   私もその時々が必死で、決して楽な道のりではなかったですが、振り返ってみると不思議とすべてが輝いているんです。運営が不安定な時代もあり恵まれていない環境を経験してきたからこそ、パワフルな考えを持った自分に育ったと思います。以前の何かしらの要因が一つでも欠けたら、今の自分にはならなかったです。本当に関わってくださった方々に心から感謝申し上げたいです。

 -下級生には何を伝えていきたいですか。

   伝統や上級生の方がおっしゃる言葉には絶対に意味があって、将来自分にとって根底を支えるものだと、いつか気づくと思います。それが歴史の一部になっていることに誇りを持って、次の100年につなげていくために大事にしなければいけないものを一緒に守っていきたいです。

 千咲  100年の歴史を思うと、あらためてすごい劇団にいるんだなと自覚します。先輩から教えていただいたことを少しでも次の世代に伝えていきたいです。憧れて夢を見たように、誰かの憧れで癒やしで夢になれたらなと思います。

 舞美  まずは自分自身と向き合ってほしいです。上級生からお知恵を頂くだけでなく、自発的に、こう演じたいということがエネルギーになると思っています。個性を大事にし、100年以上続いている劇団に誇りとプライドをもって舞台に立ってほしいなと思います。

   常に感謝の心を持って、自分たち以上にOSKを愛してくださっている方々の存在を忘れず、舞台上で自分たちは何ができるか何をお返しできるか常に考えてほしいですね。OSKの生命力の強さを受け継ぎ、突き進んでいってもらえたら。

 大阪で生まれた大阪の歌劇団として、150年、200年とずっと続いていけるように、みんなで頑張っていきたいと思います!

編集後記

 戦後からの弊紙が社内に残るが、実に多くのOSKの記事が掲載されてきた。「春のおどり」公演が大阪の春の風物詩として親しまれていた様子や、大空襲による本拠地の破壊、稽古中の大事故等も詳細に伝える。大阪で生まれ育つ芸能に向ける視線には地元紙魂が宿る。それを受け継ぐべく、20余年OSKを追ってきた。逆境を力に変えて舞台への熱情をレビューに乗せる彼女たち。ひたむきに一生懸命に頑張るその姿は尊く、多くの力をもらってきた。あっぱれOSK!未来永劫(えいごう)の活躍を。

 

同じカテゴリーの記事