東京・目黒には、人々が現実を忘れ「竜宮城」気分に浸った宴の空間や、江戸時代の面影を残す寺院がある。都心にある異世界を味わいに出かけた。(共同通信=中井陽)
JR目黒駅西口を出て、細く急な坂道を下る。江戸時代、修行者が多くいたことから「行人坂」と呼ばれるようになった。眺めが良い名所としても知られたが、今はビルで視界が遮られている。
坂の途中に「ホテル雅叙園東京」がある。前身の目黒雅叙園は1931年、料亭として誕生した。ホテルに唯一残る木造建築、東京都指定有形文化財「百段階段」が、かつての姿を伝える。七つの部屋を、ケヤキ板の長い階段廊下でつないだユニークな造り。実際には階段の数は99段だ。近年は主に企画展の会場として内部を公開。「和のあかり」展(9月24日まで)では現代作家らの作品が、装飾が施された部屋と引き立て合っている。
階段の他、部屋ごとに著名画家らが腕を振るい、宴の場を演出した。天井まで絵画が描かれ、その華やかさが「昭和の竜宮城」と呼ばれたゆえんだ。足を踏み入れると、別世界に迷い込んだ気持ちになる。
荒木十畝が四季の花鳥画を描いた十畝の間。漁樵の間は金箔や金泥、彩色木彫が迫力を生...