ギリシア神話の中の有名な話に、竪琴と歌の名手オルペウスが、急死した妻エウリュディケを冥府から連れ戻そうとするくだりがある。古来しばしば文学・美術・音楽の題材になってきた。そのうちの一つが、グルックのオペラ――オリジナルのイタリア語版(1762年)では『オルフェオとエウリディーチェ』、フランス語版(1774年、1859年)では『オルフェとユリディス』――である。
オルフェオ/オルフェの役は、男性(去勢歌手を含む)が歌うことも、女性が歌うこともあった。ツルゲーネフとの関係で前回、何度も名前が出てきたポーリーヌ・ガルシア=ヴィアルドの最大の当たり役であり、1886年版はベルリオーズが彼女のために再編したものだった。第2幕の『精霊の踊り』はフルートやヴァイオリンの独奏曲としても親しまれている。
神話をおさらいしておこう。エウリュディケは、彼女に懸想する蜜蜂飼いに襲われそうになって逃げる際、蛇に咬まれて命を落とす。オルペウスは黄泉の国に下り、冥王と王妃から妻を連れ帰る許しを得たものの、そこには一つ条件がついていた。地上へ出るまで、エウリュディケの顔を見てはならないのである。約束を守り通すまであ...