大森均の釣れ釣れ草 面白いコラムに 連載スタートに際して

 この「釣れ釣れ草」を本紙系列の大阪日日新聞で1150回連載しました。このたび、日本海新聞で新しい情報を取り入れたり、過去の反響のあったものをリライトしたりしながら続けよ、とのご指示を得ました。同一媒体で1150回はギネスか? と調べてみると、上には上がありました。それも日本人。林真理子さんの週刊文春でのコラムで1655回のギネス認定が既にされているらしい。とにかく釣りの好き嫌いを問わず、読者に「面白いコラムが増えた」と感じてもらえるものを目指して頑張りますのでよろしくお願いします。

文人釣り師の才

 他の媒体で幸田露伴や福田蘭童などの文人釣り師のことを書いた記憶がある。スポーツ選手や実業家、政治家などの釣り好きの名を瞬時に思い出すことは難しいが、文壇に釣り好きが多いと感じるのはなぜだろう。

 文壇に釣り好きが特に多いのか、といえばそれは疑わしい。開高健は釣りに行く前にはヘアトニックを頭に振りかけていく、と随筆に書いた。しかしこれがボーズ(釣果なし)にならないために育毛剤の意味での縁起担ぎだった、ということにしばらく気がつかないような文章構成にして、後に読者をニヤッとさせる。昔から釣り名人は書き下手ばかりと言われているが、対してなんでもない釣行の様子を面白おかしく読ませる文人釣り師の才能に、釣り好きが多いと、その存在を過大に感じたからに違いない。

 山本周五郎などは、その小説の中においても失意の境遇にある登場人物を慰めるために、彼らにしばしば「釣り」という時間を与えている。普通であれば、偶然の出会いの場を酒場や職場に求めるものを、釣り場の情景を巧みにとらえて流れに同化させる技巧は、文人釣り師ならではのものだ。とにかく、この「釣れ釣れ草」も露伴や周五郎ようには望むべくもないが、単なる釣行記やコラムにとどまらず、釣りの哲理にまで踏み込むような他紙にはない釣り欄を目指し、日本海新聞の「釣れ釣れ草」のスタートとしたい。

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