数年前「大森さん、明日、メバル釣りに行きませんか」と、亡き師匠からお誘いがあった。
「今日、私は二十数尾程度でしたが、舳先(へさき)で釣っていた人は50尾ぐらい釣っていましたよ」と釣りも上手(うま)いが、人を釣るのもさすが名人。偶然、仕事の予定がキャンセルになった幸運な私に断る理由などあるはずもなく、二つ返事で「御一緒させていただきます!」。
「昨日もまあまあでしたし…」
「?…!」
「師匠、それなら明日釣りにいったら3連戦ですか?」
「はい」
「えっー!」
そう言えば、こんなこともあった。
師匠が還暦を過ぎた頃、八丈島にグレを狙って3日間磯釣りに出かけたときのことだ。
帰りの羽田空港のレストランで口数も少なくなるほど疲れ果てた30代と40代の4人の同行者を前に「明日の夜からメバル釣りに出かけますが、どなたかいっしょに行きませんか?」。
「目が点になる」という言葉があるが、これが点にならずして何が点になる、と言わんばっかりに4人の目が合った。
その話を聞いた磯釣り名人のEさんが、「Oさんは、本当に釣りが好きやなぁ。釣り好きにもほどがある」と、つくづく感心。私たちのような凡人釣り師からみれば、五十歩百歩に見受けられるが、そのレベルになるとそれはそれで違いが認識できるらしい。