チヌは手術をしなくても性転換する。性転換する魚のなかでもマダイなど多くの魚はメスからオスに転換するが、チヌを含めたヘダイ亜科は、オスからメスに転換する。すべての個体が性転換するわけではなく、雌性ホルモンが不足したオスは性転換しないらしい。
魚類学的特徴もさることながら、タイ科の魚のなかでもその生態や習性が釣り人になじみになりえる条件を兼ね備えている。環境への適応力が高く、河口の汽水域にも進入し、汚染にも強いとあれば釣りの対象魚となるのは当たり前。釣り雑誌をみても、チヌが取り上げられていないものはないし、その割かれている量で人気のほどをうかがい知ることができる。
悪食ぶりは驚くほど
夜は足元まで来て大胆に餌をあさる半面、潮が澄んでいるときには、他の魚の捕食活動を遠巻きにして確かめながら自身も就餌に参加するようなところがある。また、その悪食ぶりは驚くほどで、ゴカイ、オキアミ、エビ、カニはもちろん、ミカン、サツマイモ、スイカ、サナギ、トウモロコシなど人間並みの雑食ぶりだ。各地の伝統的な釣法のどれをとっても難易度の高いものが多く、素人向けとは言い難いものばかりである。
しかし、比較的釣りやすい時期がある。それは、台風の直後だ。海況が落ち着くまでは断食状態になる。直後の反動で食いが上向くことが一般的であるが、この傾向の最も極端な魚がチヌといえる。それに潮が必ず濁って警戒心を解く、というチヌ釣りの好条件も付加されるからであろう。数も型も自己記録を塗り変える絶好のチャンスが到来する。