釣れ釣れ草 アユ釣り最終章

 アユ釣り師にとって心ときめかせた解禁が、ついこの間のように思えるのに、うたかたの夢も最終章を迎える。

 晩秋に下流の砂交じりの砂利底に産卵し、約2週間で孵化(ふか)した子は海に下る。産卵を終えた親は、疲弊した体を波間に漂わせて、鳥や他の魚の餌食になって一年の生涯を終える。

 短い生涯の滅び行くものへの哀惜と確実に終末に向かいつつある己の人生の侘(わび)しさとが重なるような気がするのがこの季節だ。私の釣友にはアユ釣りの名手が多いが、この時季は、彼らも未練がましく「もう一度だけ」と自分に言い訳をしながら、こんな心情でオトリを引いているのに違いない。

 海に下った子アユは、波の静かな沿海域を群泳し、プランクトンをエサとして育ちつつ越冬する。春になり川水の温度がぬるむと、5~7センチに成長した稚アユは慕いよって集まり、やがて大小の群れとなって川を遡上(そじょう)する。遡上の途中にはさまざまな障害があるが、可憐(かれん)な稚アユがひたすら上流に向かう様は、本能とはいえ涙ぐましさすら感じるのは私だけではないはずだ。その最初の集団を「一番のぼり」という。

 アユ釣り師たちは、これから冬眠に入る。一番のぼりが堰(せき)を飛び跳ねている場面、解禁日に川に立ち込んでオトリを泳がせている自分の姿、冬眠中のその夢はまさにそんなシーンの連続で、翌年6月まで待ち遠しい辛抱の日々が続く。

この機能はプレミアム会員限定です。
クリップした記事でチェック!
あなただけのクリップした記事が作れます。
プレミアム会員に登録する ログインの方はこちら

トップニュース

同じカテゴリーの記事