【名作文学と音楽(28)】蛇腹楽器はどこへゆく

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 アコーディオン、あるいはその小さな仲間であるコンサーティーナ――古くは一括りに<手風琴>と呼ばれた――の音が<可愛い><お洒落>などと感じられるようになったのは比較的最近のことかもしれない。以前の日本では、親しまれながらも、どこか垢抜けないイメージがあった。武田麟太郎の『反逆の呂律』(1930年)では「ブウブウ」、林芙美子の『風琴と魚の町』(1931年)では「ヴウ! ヴウ!」、田宮虎彦の『足摺岬』(1949年)では「わびしい音色」とあまり愛情のない表現をされている。

 それには理由がある。内田百鬼園(門構えに月の字を表示できないため別号で記したが、勿論ひゃっけん先生である)の『魔阿陀会』(1950年)に、氏が高等小学校の頃に手風琴がはやりだし、初めは家庭に入ったが、薬の行商の伴奏楽器に使われ、往来を流すようになって品格が下落したと書いてある。そして林、武田、田宮の前記作品はいずれも、軍服姿で手風琴を鳴らし、「オイチニ、オイチニ」で始まる宣伝文句を唄い歩く<オイチニの薬売り>が出てきた。ちなみに、『魔阿陀会』などを基に作られた黒澤明監督の映画『まあだだよ』にも、松村達雄演じる内田教授の元...

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