陽春インタビュー2023 日本調理師連合会 森口 冨士夫会長

 春らんまんの4月中旬、料理人の祭典「日本調理師連合会春季式典」が、大阪市天王寺区上本町のシェラトン都ホテル大阪で開かれ、全国各地から500人を超す人たちに集まってもらいました。コロナ禍で耐え忍ぶ日々が続いたと思いますが、参加された料理人の皆さんは明るく目が輝いていました。

 そんな元気いっぱいの仲間たちに囲まれ、私自身、大変勇気づけられました。「参加された皆さんの意欲を日本料理界の発展につなげていかなければならない」と、会長として肝に銘じました。来賓の国会議員や各種団体代表者からも激励の言葉をいただき、コロナ禍後の今こそ、将来の飛躍に向けて、全力を尽くさねば、と私自身、心に誓いました。

 飛躍に向けて最大の追い風になると期待しているのが、2年後に開催される大阪・関西万博です。日本料理は、国際的に評価されており、2013年に和食がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産に登録されたこともあり、日本料理のファンが増えています。

 そのことを裏付けるように、日本料理店の海外進出のデータを見ると、海外における日本食レストランの数は2013年の5・5万店から19年には15・6万店に増加(農林水産省推計)しています。

 そうした中で迎える万博は、日本料理の国際化に力を入れている調理師連合会にとっても絶好の機会です。日本に集まる海外の人たちに、日本料理の素晴らしさをいかに体験し、喜んでもらえるか。そのための取り組みを、会合等を通じてきめ細かに話し合っています。

 海外の人たちから「日本料理に感動した」といった声が、いたるところで聞かれるようにしていきたい、と考えており、そのためには日本料理業界全体の底上げが必要です。底上げのためには個々の料理人が日本の食文化を理解した上で、技術、マナー、顧客サービスなどのレベルを高めていかなければなりません。

 日本の食文化について、ユネスコは無形文化遺産に登録した際、「栄養バランスに優れた健康的な食生活」「正月など年中行事との密接な関わり」「『いただきます』といった礼儀や作法(マナー)の伝承」など、「日本の風土に根差した精神性の高い食文化である」と紹介しています。

 さらに、「医食同源」という言葉があるように、日本料理は健康や命を守るために生まれた貴重な日本の伝統文化である、と先人たちから伝えられています。

 こうした食文化は、日本ならではのもので、貴重な文化遺産です。日本調理師連合会としても後世に伝えていくべき責任と使命があると思っています。今後、伝道者の役割を果たしてもらう、人材育成に力を入れており、大学・専門学校生を対象にした料理教室や、優れた料理人の技術やマナーをたたえる表彰式、各地の日本料理店を私が訪ね、料理や経営方針などを雑誌で紹介するなどを行っています。

 いずれにしても日本料理の国際化を図っていく上で、万博は格好の機会ととらえており、「不易流行」の精神で、伝統を守るべきものは守り、改善すべきことは改善し、時流の変化に対応した取り組みを実践し、万博がある2025年を日本調理師連合会にとっても歴史に残る飛躍の年にしていきたい。

 森口 冨士夫氏 プロフィル 大分県の津久見市出身。10人兄弟の末っ子。盆や正月に帰省する兄たちの背広姿を見て、「早く背広が着たい」と、日本料理の道に入った。「料理人として勝負するなら大阪で」と箕面観光ホテルで修業。「料理長の園山清市先生は、前菜を作らせたら“日本一”と言われ、前菜を見ればその職人の技術が分かる、と教えられました」。好奇心旺盛で、多趣味でも知られる。茶道(裏千家)、華道(小原流)をたしなみ、生間流式(いかまりゅうしき)包丁を習得。「男の勲章」「料理道」などのオリジナル曲も出しており“料理人歌手”としても知られる。「黄綬褒章」「現代の名工」などの栄誉に輝き、大阪府豊中市上野東3丁目の「翠徳亭」のオーナー。

 【公益社団法人日本調理師連合会】 大阪市北区西天満4の5の5、マーキス梅田701号室、電話06(6312)8851。1951年設立。2015年に公益社団法人に改組。日本料理の普及と業界の発展を目的に料理教室、食育推進イベント、各種表彰式などを実施。専門情報誌『月刊 味感』を発行。

同じカテゴリーの記事