新1万円札や大河ドラマに描かれ、世間の関心を集めた渋沢栄一。「日本近代経済の父」や「実業界の父」と呼ばれるだけあって、金融、海運、繊維、紙パルプ、セメント、鉄鋼、造船、ガス、電力など、さまざまな企業の設立や運営に関わってきた。このうち、レンガ製造会社の「日本煉瓦製造」は、渋沢の故郷である埼玉県深谷市に工場を建設した。操業開始は1887年。製品のレンガは工場近くの河原から船で東京方面に出荷された。
やがて東京方面への輸送力を上げるため、専用鉄道(貨物線)が高崎線の深谷駅と工場を結ぶようになった。鉄道によるレンガ輸送は1970年ごろまで続いたという。いまでは専用鉄道は役割を終えたが、約4キロにわたる廃線跡は遊歩道として整備され、近隣住民や観光客に愛されている。
深谷駅を目指して高崎線に乗った。駅では多数派がSuicaを使うところを、あえて渋沢の肖像が描かれた新1万円札を自動券売機に入れて乗車券を買い、渋沢ゆかりの小旅行の気分を高めた。そういえば高崎線は、渋沢が関わった「日本鉄道」が建設した路線だ。そんなことを思いながら深谷駅へ向かった。
深谷駅は「東京駅にそっくり」と言われるレンガ風の駅...