【3分間の聴・読・観(32)】ラストから味わう読者の特権

 1人から始まる心の揺れとは

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  •  佐藤友紀・大木麻理「天上の音楽」

 今までに出合った本の中で、再読したいものは何冊あるだろう。未読の書は数え切れず、新刊も次々と現れる。読むのは大好きだがこの先は何ともおぼつかない。そう自問するわが身に斎藤美奈子の新刊「ラスト1行でわかる名作300選」は刺激になった。名著の最後の1行に着目して読みどころを示し、作品の真意を掘り下げている。

 「サイエンスの香り高い小説を神話に押し込めるってどうなのよ」など、切れ味よく迫る筆致に運ばれて、私も再読か初めてかを問わず手に取りたくなる本のリストができた。優れたブックガイドでもあり、ツッコミに教えられる仮想読書会のようでもある。

 「吾輩は猫である。名前はまだ無い」「メロスは激怒した」。書き出しが有名なこれらの名作も、最後の1行はそれほど知られていない。言われてみれば確かにそうだ。結末が先に分かってしまうと楽しみや意欲がそがれる気もするが、当代の読み巧者である斎藤はこう喝破する。

 「だいたい、ラストが割れたくらいで興味が失われる本など、最初からたいした価値はないのである」。再読にも通じる卓見と言っていい。何度でも感動したり、新たな意味を発見したりできる作品は強度と柔軟さを兼ね備え、...

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