お笑い文化が盛んな大阪で、「笑ってすっきり」だけでなく、涙を流してストレスを解消する「涙活(るいかつ)」の文化を広めようと、大阪市の放送作家、橋本昌人さんが挑戦を続けている。研究機関「日本笑い学会」理事でもあり、涙と笑いの“二刀流”で「笑いの劇場のように涙活ができる場所をつくっていきたい」と意欲を示す。
母親が、重い心臓病を患う幼い息子に出した手紙。橋本さんが思いを込めて読み上げると、涙ぐむ看護師の姿が見られた。
■思い出す「気持ち」
新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行で、医療現場が疲弊していた2月、枚方市の天の川病院で開かれた「涙活」講演会の一場面だ。
同院での講演は2度目。約30人の看護師やスタッフが参加し、ストレスが「ない」「あまり感じない」を合わせた割合は、涙活の体験前後で1割強から4割に増えた。柴原伸之理事長は「ストレス解消効果はもちろん、日々の忙しさで失いかけていた大切な気持ちも思い出させてくれる」と効用を指摘した。
涙活は、感情の高ぶりで涙を流したとき、自律神経が、緊張や興奮を促す交感神経が優位な状態から、リラックスや安静を促す副交感神経優位の状態に切り替わるのを利用した手法。2013年に民間業者と脳生理学者が連携して提唱し、週1回行うだけでもストレス対策になるという。
■手紙で「震える心」
かつて大阪の劇場でお笑い芸人のネタ台本を書いていたが、その後担当していたラジオ番組で、誰かのために心を込めて書いた手紙を「ラブレター」と位置付け、紹介する企画を展開。読後に自然と涙があふれると気持ちがすっきりしている体験から、涙の効用に着目していた。
涙活提唱者との交流を機に13年から講演活動を開始。涙を流してもらうために用いたのは手紙だ。橋本さんは「書き手の気持ちが文章に焼き付けられているから、人の心が震える」と魅力を説く。
日々強くなってきたのは「笑いの劇場はあるのに泣かせる劇場はない」との思い。昨年末から今年にかけ、大阪市内の商業施設で立て続けに催しを企画した。今後も涙活を実践できる機会を増やす方針で「誰かと、時間と空間を共有しながら泣ける場所をつくっていきたい」と力を込める。