「手に職をつけなさい」。かつて年長者から若者への定番の助言だったが、最近の若者からは「言われるまでもない」という危機感を感じる。実際、大企業に採用を得ながら、スキルアップが望めるベンチャー企業を選んだ学生の話も聞くようになった。いまや雇用者の4割近くを非正規労働者が占める時代。彼らは、いったん正規から外れると結婚して子どもを持つことが困難になることをよく知っている◆厚生労働省が2日に発表した2022年の女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」が05年と同じ1・26まで低下し、過去最低となった◆危機感を強調する国は「次元の異なる少子化対策」を掲げ、2日に対策の素案を公表。目玉は1兆2千億円規模の児童手当の拡充で、育児給付金の引き上げや育児時短就業給付の創設など現金給付が目立つ◆確かに育児の負担は軽減されるだろうが、根本的な問題はそこか。05年の議論で原因として指摘されたのは経済の低迷と雇用の不安定化だ◆コロナ禍で解雇された非正規労働者の厳しい生活をみれば、出産はもちろん、結婚のハードルも高い。彼らがまず求めているのは安定して続けられる仕事であり、現金給付だけでは税金の無駄遣いになるのではないか。(木)