「女役者」の哀歓 藤山直美しみじみ 「泣いたらあかん」大阪新歌舞伎座で20日まで

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 藤山直美が大阪新歌舞伎座で「松尾波儔江三十三回忌追善公演」の舞台に立っている。当劇場の設立者で自伝「女役者」の主人公の波乱の半生をドラマ化した「泣いたらあかん」(吉本哲雄/横山一真脚本、竹園元演出)で、16年ぶり3回目の上演になる。大正から昭和の戦後までの大阪を舞台にして、直美がヒロインの人生の哀歓をしみじみ演じて涙と笑いを誘っている。

 劇団「川路流星一座」に主人公の川路鹿子(藤山)が所属し、父の流星(石倉三郎)と座員の尾形耕三(榎木孝明)、辛島征爾(金子昇)らと一緒に芝居をしながら生活をしている。やがて流星が後妻の喜久江(仁支川峰子)との間の娘である幼い禎子を劇団に入れるのを機に、耕三と征爾の鹿子を巡る恋争いなどで一座は危機を迎えるが、それでも劇場の座主・松本(大津嶺子)と社員・千吉(内場勝則)の取りなしで、鹿子が座長になり新劇団「大和なでしこ」で再出発することになる。

 昭和の初め。座長の鹿子は看板女優に成長し、耕三と夫婦になり、大人になった禎子(南野陽子)も鹿子と並ぶ人気を得て劇団は落ち着きを取り戻すが、それが長く続くはずはない。鹿子と父は対立したままで、征爾が一座を去り、何と耕三が禎子と駆け落ちし満州に旅立つ。戦争が激しくなり女形の板垣(瀬川菊之丞)に赤紙が来て、一座が芝居「瞼の母」の劇中で彼を兵士として送り出す場面はホロッとさせられる。

 鹿子は依然、一座を守らなければならず、病気の父や喜久江らとの隙間風もある中、歯をくいしばるしかない。やがて満州に渡り映画に出て成功し里帰りした禎子に鹿子は再会し、彼女が詫びる姿に初めこそ激高するが、誰が悪いのではなく誰もが時代の流れに逆らえなかったということを知ったのではないか。

 終盤、戦後すぐの大阪の焼け跡地の光景が出てくるが、今のウクライナの戦争のそれと重なって見えてくる。「泣いたらあかん」というタイトルは、初演、再演を経ての今回、今の時代の「匂い」がこもっている。通しで現代の御堂筋から語り手(藤村薫)を登場させる竹園演出が利いている。直美のどじょうすくい踊りと、ギャグ一発「チンジャオロース!」が見事。直美一座の出演者がそれぞれ好演。ほかに武岡淳一、いま寛大、曽我廼家玉太呂ら。久々制限なしの満員の劇場で、芝居がいつもより盛り上がったのではないか。20日まで。

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