遠くの生け垣や街路樹から甘い香りが漂ってきた。梅雨時はちょうどクチナシ(アカネ科)の開花時季と重なる。つややかな緑の葉の間にファンの羽根を思わせる純白の花がそこかしこに咲き、花姿と香りで道行く人たちを魅了している◆花言葉には「喜びを運ぶ」「とても幸せです」-などがある。俳諧では夏の季語として与謝蕪村や正岡子規ら多くの俳人にも詠まれるなど、古来、初夏の花として親しまれてきた◆花や香りだけでなく、秋に実る赤みがかったオレンジ色の果実の美しさも魅力の一つだ。果実から抽出・分離された色素は食品用として活用されており、原材料の記載で目にすることもしばしば◆黄色をはじめ、赤・青の色素も得られ、混合して幅広い色が再現できる。乾燥させて薬用にも使われることから、思わぬところで人々の生活に密着している花といえる◆花の名前から思い浮かぶのは、やはり渡哲也さんが歌った「くちなしの花」(1973年)ではなかろうか。作詞は後年の「みちづれ」(75年)なども手がけた水木かおる氏、作曲は遠藤実氏によるヒット曲で、今年8月で曲の発表から半世紀を迎える。残念ながらお三方とも鬼籍に入られたが、曲も含めた生前の活躍はいつまでも色あせることがない。(佐)