上方落語協会所属の最年長噺家(はなしか)、笑福亭円笑(83)が8月4日夜、大阪・南森町の天満天神繁昌亭で独演会「怪談牡丹灯籠(ぼたんとうろう)通し公演」を実施する。円笑は上方で江戸落語を高座で演じる唯一の存在で、「今やらないと体力的にもう無理。大阪で初演し、成功すれば名古屋や東京でもぜひ口演したい」と張り切っている。
「牡丹灯籠」は歌舞伎や演劇の舞台で、お露の幽霊がカランコロンとゲタの音を響かせ夜な夜な新三郎のもとにしのんでくる展開で知られる。もともとは明治初期の江戸落語名人、三遊亭円朝の手による創作落語。昭和時期までは六代目三遊亭円生など江戸落語界の歴代真打ちが得意とした演目だったが、笑いの少ないドロドロした人間模様でシリアスな内容から、現代では口演される機会が次第に減少。上方落語には元々無い演目とあって、円笑が時々夏場の怪談話として口演してきた程度だった。
最も知られた部分は通称「お札はがし」と呼ばれ2幕目に相当、その前段では若い2人が出会う「お露新三郎」があり、後に登場人物が入り乱れてウソとだまし、忙殺などが度重なる「お峰殺し」と「関口屋のゆすり」へと続く。各編を丁寧に演じると計4時間近くになるが、円笑は「一気にやるので、前段のダイジェストは必要ない。さらに現代に合わないくどい表現や比喩を省いたりしてざっと3時間弱まで削りました」と説明。
1夜公演に収めるために夜6時20分に開演し、遅くても9時半頃には終える計画。上方高座に付きものの鳴り物も駆使して盛り上げる構成を計画で、三味線の入谷和女は「もちろん初めての演目で緊張します。円笑師匠に細かい台本を作って頂いており、それを見て抜かりなく勉強します」と緊張気味。笛の名手で当日は開口一番でもしゃべる笑福亭松五は一門の大先輩の挑戦に「タイミングだけ間違わないように気を付けて」と話し、太鼓の桂団治郎も「僕はお芝居の仕事もしているので舞台の牡丹灯籠は見た事がある。でも後半は全く知らない部分が多いので貴重な経験です」と楽しみなようす。
繁昌亭の上演について円笑は「中入り休憩を挟んで2話ずつ演じるが、兄弟子に当たる協会の仁智会長から“救急車用意しとかんとアカンな”と笑いながら激励されました。単調にならないように黒い幕やスポットライトなどを使った演出も考えています。これまで東京では、1人の噺家が4夜連続で口演したり、1夜で演者を替えてリレー口演したりしたことはあるが、1人が1夜で一気に通しで演じたケースは東西通じて聞いた事がない。江戸落語を愛する噺家としてずっとやってきた集大成のつもり。健康に気を付けてぜひ成功させたい」と意気込んでいる。