長崎・出島の三学者の一人として知られる独医師・博物学者シーボルトが1823年7月6日、日本にピアノを持ち込んだ。明治時代には日本楽器製造(現在のヤマハ)や西川ピアノがピアノの製造を開始◆高価なぜいたく品が一般家庭に広く普及したのは戦後で、団塊ジュニアの筆者が幼少期は周囲の女子のほとんどがピアノを習っていた。しかし中学生にもなると大半がやめ、誰にも弾かれなくなったピアノはやがて買い取り業者に引き取られていった◆200年前に“初来日”したピアノは、今も山口県萩市の熊谷美術館にある。シーボルトは帰国時、親交のあった熊谷五右衛門義比にピアノを贈り、熊谷家は土蔵に保管。それが戦後見つかり、修理を経て一般公開されるようになった◆1819年英国製で、日本に現存する最古のピアノとされる。スクエアピアノという機種で鍵盤は現在の88鍵より少ない68鍵、ペダルは1本。その音色を動画で聴いたがチェンバロのような響きだ◆わが家は1年前に新品ピアノを購入したが、幼少期に弾きなじんだ鍵盤の感覚とも音色とも違って、どうもまだ借り物然としている。「ピアノは生き物ですから」と調律師さんは言う。シーボルトピアノは204歳。“ピアノ育て”は始まったばかりか。(斎)