潮騒 2023.7.12

 大阪で最も好きな風景は? ふと思いを巡らせた。候補は挙がるが、いずれも甲乙つけ難い。そんな中、不思議と必ず思い浮かぶ風景がある◆泉北高速鉄道「泉ケ丘駅」近く、堺市立ビッグバンが建つあたりに昔、鉄骨造りの展望台があった。赤い大きな展望デッキが目立っていた。頂上に続く階段は骨組みだけで壁が無く、ある程度の歳まで怖くて登れなかった◆初めて登り切ったのは、父母に手を取られ、散々泣き叫びながら。でも、異様なまでの達成感に包まれたのを思い出す。今のビッグバンにも展望台はあるが、「あの展望台」を含む風景にはもう出合えない。そう思うと、やはり寂しい◆もう一つは中津の親戚の家への道すがら。貨物線のガードを潜らねばならないが、列車が通る大きな音が怖かった。長い長い貨物列車が通り過ぎるまで待ち続けた夜道の風景が記憶に残る。うめきた2期工事で線路が地中化され、怖い怖い音を含む風景も姿を消した◆記憶とともに残る風景は驚くほどに鮮明だ。対して近頃、何があったか思い出せない場所が多くなった。日々忙しく過ごす中、気にしなくなったのか、はたまた自身のアンテナが鈍ったのか。多くの風景が記憶に残るよう、感受性はしっかりと持ち続けていたいものだ。(岡)

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