【名作文学と音楽(14)】バッハはそのままジャズになる

倉橋由美子『シュンポシオン』

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  •  倉橋由美子
  •  福武書店刊の『シュンポシオン』
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 先月のテーマがギリシア神話絡みだったのを引き継いで、今回は『シュンポシオン』というギリシア語の題名を持つ倉橋由美子(1935~2005)の小説を取り上げようと思う。刊行が1985年で作品の現在時点は2010年ごろだから、一種の未来小説である。内容については後段で触れるとして、その前に<シュンポシオン>とは何であるかを確認したい。

 最も簡単な説明なら「シンポジウムの語源」。しかし、壇上の議論を客席で拝聴するあの謹厳な形式とは大いに違い、古代ギリシアでは、「共に飲む」という語義通り、宴席に招かれた者たちが寝椅子に横たわって酒を酌み交わし、歓談に時を過ごすことを意味した。楽人の演奏を聴き、踊りや曲芸を見ることもあった。その様子を記したいくつかの書物の中で一番有名なのが、哲学者プラトン(紀元前427~347年)による『シュンポシオン』。岩波文庫の久保勉訳『饗宴』から大筋を抜き出してみる。

 プラトンが報告しているシュンポシオンは紀元前416年、アテネで催された。詩人のアガトンが悲劇の競演会で優勝したのを祝い、彼の家に哲学者のソクラテス、喜劇作家のアリストファネスらがつどった。不思議なことに、こ...

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