たたら製鉄の砂が海流や風で運ばれてできた弓ケ浜半島は、山陰の他地域にはない南国のような開放感がある。白砂青松の砂浜と、その向こうに望む大山。地域全体がカラッとした明るい雰囲気に包まれている。
そんな穏やかなこの地で、事件は起きた。1977年10月21日。米子市の松本京子さん=失踪当時(29)=は近所の編み物教室に行くと自宅を出たまま戻ってくることはなく、行方不明になった。
家族や同級生が真夜中まで捜したが、見つからなかった。当時、自宅から約200メートル離れた場所で、京子さんと2人の男が一緒にいるのが、近所の男性に目撃されている。京子さんのサンダル、海に向かって何人かの足跡も残されていた。警察は不審な電波の交信を受信した。政府は2006年、北朝鮮による拉致被害者として認定した。