「後悔の念」「複雑な胸中」「やり直しへ」「実るほどに」の見出しを立てて連載した。取材ノートを開くと、伝え切れなかった話がいくつかある。その一つが「匿名」性の意義だ。
4月施行の孤独・孤立対策推進法は、人間関係が希薄な現代社会を映し出した格好だが、孤独、孤立そのものが問題なわけではない。孤独を覚え、孤立することで「心身に有害な影響」を受ける状態が問題であって、時として孤独、孤立な環境に身を置かなければいけない人もいるのだ。例えば、元犯罪者たち-。
鳥取県地域生活定着支援センター長の寺垣琢生弁護士はこう語った。
「地域に戻ったとしても、元犯罪者という偏見の中で生活するのはとても大変。自由に生きるための匿名性というのは大事だ」
取材班の私たちは現場で、似た感覚を味わった。重大事件を起こした精神障害者の処遇に焦点を当てた時のことだ。「(家族は)自分たちが罪を犯したかのように暮らしている」と相談支援専門員に聞き、耐え忍んで生きる加害者家族の胸中を察した。