芸能の世界に生きていると、若手といえどもとにかく舌が肥えてくる。まだ稼ぎもないくせに、いいものを口にする機会の多い環境にいるから、ただただ舌が肥えていく。父親が落語家だった私は、幼少期からそんな環境に身を置いていた…。
父(五代目柳亭痴楽)は、落語会の度にお客さんから頂く差し入れや、楽屋に出た菓子を持って帰ってきてくれた。お客さんからの楽屋見舞いの差し入れなので、有名な菓子折り、高価な菓子折りを頂くことが多い。地方の落語会となると、お客さんや主催者さんからその土地土地の銘菓をもらって帰ってきてくれる。
そんな毎日なので子供の頃の私は、父の帰りというものが待ち遠しくって仕方がなかった。と、ここまでは子供らしい非常にかわいいエピソードなのだが、ここからが実に憎たらしい話…。
「お~い、帰ったぞ~」。ある日、帰宅した父はいつものように、もらい物の菓子折りを携えていた。
「お帰り~!」。私はそう言って、あいさつもそこそこに父の携えた菓子折りに飛び付き、虎屋のようかんを見て一言…「なんだ、またトラヤか」。
なんて生意気なガキなんだ! そんな幼少期。
私のことはさておき…。入門が許されてから、過...