世に「◯◯耳」というものがある。主に外国語のヒアリング力が上がることを指すのだが、ずっと聞き続けているうちに音が区別できるようになり、単語のまとまりが聞き分けられ、意味が付いてくる。等し並みに感じていた音が、実は微少な単位で意味を持っていると気付く喜び。同様の楽しみが得られる1冊がマイク・モラスキー「ピアノトリオ」である。
「戦後日本のジャズ文化」「ジャズ喫茶論」で知られるモラスキーは昨秋、大著「ジャズピアノ」でこの音楽ジャンルにおけるピアノの魅力を著した。「ピアノトリオ」は手軽な新書で、まだ「ジャズ耳」になっていない人も手に取りやすい。
私は中学生の時に近所のジャズ喫茶店主から使い古しのLPをもらって聴き始めたのだが、当時はテーマ→アドリブ→テーマと展開すること以外は、格好いいけれども何が起きているのか分からなかった。
そのころに刊行された入門書を読んで、同じ曲を1回目はピアノ、2回目はベース、3回目はドラムスなど楽器ごとに集中して聴くことを覚えてからは、どんどん面白くなっていった。それでも針を落とすレコードやカセットテープでは、細部を何度も再生するのはなかなか面倒。もちろん、その...