被写体の「明日の幸せ」をそっと願って撮り続け、半世紀を超えた写真家のハービー・山口さんが、著名人を活写したカットを紹介。撮影秘話や心の交流を振り返る連載の第2回。
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1973年から約10年間、私はロンドンで過ごした。75年、短編をエディンバラ国際映画祭に出品するため英国を訪れていた劇作家で映画監督の寺山修司に出会った。
寺山をロンドンのジャズクラブに案内することになった。39歳の寺山は洗練されたボーカルジャズに「完成されたものより、僕は崩したのが好き」と漏らし、当時の私にはないセンスを感じた。
映画祭で私も寺山の作品「ローラ」を鑑賞した。映画の中で1人の男がこちらに向かって逃げてくる。すると実際に男がスクリーンから観客席に飛び出してきた。はみ出したものが好きという彼の世界観を理解した。写真は上映後、観客と交わる寺山を収めた。
劇団「天井桟敷」の欧州公演などで寺山と交流を深めた。「米国ではなく、なぜロンドンに来た?」と聞かれたことも。青森出身の寺山は、東京でなまりを含めてさまざまな劣等感を抱えたと聞く。英国で生きる日本人の私に自身を重ね、劣等感や孤独さを見いだし、共感して...