いつ頃からか、私がSNSで発信すると「既得権益を守ろうとしている」と批判されるようになった。最初は何のことだかわからなかったが、「利権組織である日本医師会の言うなりになっている」といった意味らしかった。ネットの社会で「既得権益」とは、権威、強固な組織、そして利権をひとりじめにする旧態依然とした悪のシンボルを指す言葉なのだ。
驚いて「医師会との関係は薄い」「何の経済的恩恵も受けていない」などと説明しても、信用してもらえなかった。ただ、誰かが「既得権益の側だ」と言い始めるとたちまち多くの批判が集まり、この単語がネットユーザーの“心の起爆剤”になるのを目の当たりにした。
先ごろ終わった兵庫県知事選挙でも、この「既得権益」というワードがクローズアップされた。県議会の全議員から不信任を突きつけられて失職した斎藤元彦前知事は、議会や大手マスコミといった「既得権益」と闘っているというストーリーがSNSを通して拡散されたのだ。議会やマスコミは“悪”で、そこに単身、立ち向かう前知事は“正義”というわかりやすい二項対立の構図も作られた。そして、結果的には当初の報道による予測をくつがえして、斎藤氏が当選し...