正義というのは、やっかいなものだ。人によって何が正しいかはまちまちで、正しいと信じているからこそ、それが間違っているかもという疑念が湧きにくい。ウクライナやハマスはもちろん、ロシアもイスラエルもそれぞれの正義を主張している。すべからく戦争というものは正義と正義のぶつかり合いだし、ネット上の論争も同じようなものだ。では、真実や倫理はどこにあるのだろう。
「八月のクリスマス」などのホ・ジノが監督した韓国映画「満ち足りた家族」は、2組の夫婦とその子どもたちによる心理サスペンス。オランダ出身の作家ヘルマン・コッホの小説「冷たい晩餐」が原作で、これまでに何度か映画化されている。
実利優先で権力志向が強い兄の弁護士ジェワン(ソル・ギョング)は、まだ若い2人目の妻ジス(クローディア・キム)、高校生の息子と高級マンションで暮らす。弟のジェギュ(チャン・ドンゴン)は良心的であることを旨とする医師で、年上の妻ヨンギュ(キム・ヒエ)と娘、老いた母とも同居している。
性格も生き方も正反対の兄弟は月に1度、それぞれの妻を伴って高級レストランでディナーを共にする。ある日、10代とみられる男女がホームレスに暴行を...