【3分間の聴・読・観(31)】ビヨンセ受賞と落ち着かない小説たち

 多様性の未来はどこへ

  •  スピーチするビヨンセ=米ロサンゼルス(ロイター=共同)
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 今年のグラミー賞でビヨンセのアルバム「カウボーイ・カーター」が最優秀アルバム賞を受賞し、同時に黒人アーティストとして初めて最優秀カントリーアルバム賞を贈られて話題になった。多様性重視からかじを切り、不寛容に覆われた米国をたしなめる出来事に映る。音楽を通じた価値観のせめぎ合いは、米国文化の層の厚さと深さを示している。

 グラミー賞発表の時期に読んでいたのが、柴田元幸翻訳叢書「アメリカン・マスターピース 戦後篇」。1950年代前後の米国文学の短編から10作品を収めている。柴田の解説を読む。「五〇年代というと、経済的には繁栄しても、社会的には画一化への圧力が強かった息苦しい時代というイメージ」だが、「文学は(当然ながら)むしろそうした画一化に対抗していた」という。自由への抑圧は常に起こり得る。現代に通じる時代背景ではないかと思った。

 柴田が選んだ作品は、いずれも登場人物の内面の息苦しさや破滅寸前の危うさを感じさせる。

 冒頭のシャーリイ・ジャクスン「くじ」は、読み終わっても落ち着かず、「いや、ちょっと待て」とすぐ読み返したくなった。ある村で住民がくじを引く。恒例の行事のようだ。短い物語が進むに...

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