舞台、映像で約70年にわたり、主演し続けてきた俳優・浜木綿子。開場から舞台に立つ東京・日比谷の2代目帝国劇場は建て替えのため2月末に幕を閉じた。浜の航跡を人との出会いを軸にたどる。
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宝塚歌劇団娘役として活躍する浜木綿子の演技を見初めたのが、ラジオドラマ「君の名は」で知られた劇作家で興行会社、東宝取締役の菊田一夫である。宝塚歌劇団顧問でもあり、作品も提供していた菊田は浜を東宝に招きたいと考え、自宅を頻繁に訪れて熱心に誘った。
「夜討ち朝駆けでしたね。ある日の午前3時ごろ、両親が『菊田先生いらしたよ』と起こしに来ました。仕方なくお会いしましたら、『悪いようにしないから東宝に来てくれ』。寝ぼけて、つい『はい』と言っちゃったの」
とは言うものの迷いがあり、菊田に「一度試させてください」と頼み、菊田作・演出で1959年10月から東京・芸術座でロングランしていた大ヒット作「がめつい奴」に在団のまま出演。大阪・釜ケ崎の簡易宿泊所に住み、けがをさせたと言いがかりをつけて金にする小山田絹役を60年2月に演じた。
「稽古場で最初のせりふの『痛タタタ!』と口にした瞬間、先生は『ばかやろ...