梅雨が明け、夏の訪れを感じると学生時代に青春を謳歌(おうか)した京都へ行きたくなる。
ここ最近、SNSを介してかつての同級生とつながり再会するケースが増えている。「歳の離れた弟おったん覚えてる? 今、宇治のお店で頑張ってるわ」と美大時代の友人が居酒屋でつぶやいた。短い会話だったが店名が耳に残り、窓からの雨景色と相談しながら晴れ間と共に京阪電車へ飛び乗った。
平等院近くの風情漂う商店街から少し奥に入った場所にたたずむ一軒のカフェ。「雨上がりのように小さくても幸せを感じてもらえれば」と語るのは、シフォンケーキ専門店『あめあがり』オーナーの堀井康行さんだ。サラリーマンの父、実家が食堂の母、そして9歳年の離れた兄から成る家族の次男として宇治市で育つ。幼少期から美術など作ることが好きで将来の夢はパン屋さん。摂南大学経営情報学部に進学後はアーチェリー部に所属し仲間たちと汗を流した。
転機が訪れたのは就職活動の時。かつてお菓子作りが好きだったことを思い出し京都市内の名店でパティシエになった。独立のきっかけを尋ねたところ「母親と興味本位で物件を見て雰囲気にひかれました。ここで自分の作ったお菓子を食べていただきたいと思いお店を出すことを決めました」と振り返る。
シンプルながら製造が極めて難しいシフォンケーキ。しっとり、ふわふわ食感を出すため水分を調節しながら試行錯誤が続いた。また食の安全と味覚を考慮し、きび砂糖、国産小麦、米粉に至るまで細部にわたり原料にこだわった。風合いの決め手となる卵は「京地鶏のさくらたまご」を使用し地産地消している。
「ご来店いただいたお客さまが幸せになってもらえるようおいしいお菓子を作りたい。日々勉強し成長していきたいです」。町屋を改装した店内には、穏やかな明るい日差しが降り注いでいた。
(コラムニスト)
■『あめあがり』 京都府宇治市宇治妙楽144、電話080(4026)8052