歌人の枡野浩一さんが一度は諦めた芸人になるという夢をかなえるため、芸人養成所に入所した。挑戦する55歳の日々を、短歌を交えてつづる連載の最終第7回。
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〈旅人は旅をやめたらただの人 芸人もそう 歌人も同じ〉
11月の文学フリマ東京は行かなかった。タイタンの学校がある日だったから。文学フリマは文学の雑誌や本を手売りする人が全国から集まる巨大なお祭りで、昨今の「空前の短歌ブーム」を準備した催しの一つだと思う。
今回は、作家phaさんと俳人佐藤文香さんと僕の共著「おやすみ短歌 三人がえらんで書いた安眠へさそってくれる百人一首」を筆頭に、僕も短歌を寄稿した雑誌「胎動短歌」や「ポエトリー左右社」が初売りされた。会場で著作だけが光を浴び、僕本人は地下の教室で地味に学んでいた。
文学フリマの前夜、歌人の俵万智さんに初めてお目にかかった。山崎ナオコーラさんの「ミライの源氏物語」が今年ドゥマゴ文学賞を受賞し、その選考委員が俵さんだったのだ。18歳の時「サラダ記念日」を読んで短歌を始めた僕は今55歳。「枡野浩一全短歌集」のヒットは、俵さんの推薦文のおかげでもある。
山崎さんの受賞作は、源氏...