【名作文学と音楽(23)】クヮルテットはつらいよ

小池昌代『弦と響』、丸谷才一『持ち重りする薔薇の花』

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「モデラート・カンタービレ! ――中くらいの速さで、歌うように――。五十を過ぎ、今、わたしの『生の速度』は、そのモデラートであれ、と願っている」という言葉が小池昌代(1959~)の長篇『弦と響』(2011年、のち光文社文庫)の中にある。「たくさんのものを失った。でも恋をして、よかったと思う。いま、わたしは歌いたい。歌うように生きたい。いや、生きるように歌いたい。モデラート・カンタービレ!」。デュラスの小説では少年の、そして小池の小説では大人の女性のモデラート・カンタービレだ。

 誰が、どのような人生があってこれを口にしたのか。その説明は少し後に回し、まず小説全体について短くまとめてみる。

 30年続いた鹿間四重奏団が今日、ラスト・コンサートを迎える。そして、彼らが座付きのグループとして深い関係を築いてきたホールもまた、先行きが見通せない状況になっている。メンバーの一人一人に加え、チェリストの妻、ホールのスタッフ、ステージ・マネージャー、楽団のマネージャー、タウン誌の記者、演奏会の来場者、第1ヴァイオリン奏者・鹿間五郎の元恋人がそれぞれ、楽団との関わり合いを一人称で語る(ただし鹿間本人の章は...

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