被写体の「明日の幸せ」をそっと願って撮り続け、半世紀を超えた写真家のハービー・山口さんが、著名人を活写したカットを紹介。撮影秘話や心の交流を振り返る連載の第3回。
× ×
ロンドンで暮らしていた1970~80年代、パンクロックが隆盛を極めていた。81年、その草分け「ザ・クラッシュ」のボーカル兼ギタリストのジョー・ストラマーを偶然地下鉄の駅のホームで見かけた。アルバム「ロンドン・コーリング」がヒットし、世界的な人気を博していた。
いつもカメラを携えている私でも、さすがにプライベートだから撮影は控えようと思った。だが千載一遇だ。おそるおそる話しかけてみた。
「ジョーさんですよね? 写真を撮ってもよろしいでしょうか」。意外にも彼は笑みを浮かべ、OKしてくれた。
セントラルラインに2人で乗り込み、彼が降りる駅で電車が止まった。最後ぶれずに撮れたのがこの1枚だ。
英国社会の矛盾と闘い、ステージではほえるようなジョーが、無名の東洋人の私に優しい視線を向けてくれた。去り際ジョーは振り返って言った。
「撮りたいものは撮るんだ! それがパンクなんだ」
ロンドンでどうやって生きていけばいいのかと...