2023年3月に亡くなった坂本龍一の大型インスタレーションを集め、日本では初の大規模な個展となる「坂本龍一-音を視る 時を聴く」(東京都現代美術館、3月30日まで)は、音と映像を立体的に構成することによって時間の概念を問い直している。
中でも坂本とアーティスト高谷史郎のコラボレーションの新作《TIME TIME》に強い磁力を感じた。2021年の作品『TIME』を基にしており、三つの大画面に夏目漱石「夢十夜」、能「邯鄲」、荘子「胡蝶の夢」をモチーフにした映像と音楽が繰り返し現れては、眠りの中の夢と時の流れを溶け合わせるように展開する。
「もう死にます」。そして「百年、私の墓の傍に坐って待っていて下さい。屹度(きっと)逢いに来ますから」と女が言う「夢十夜」の有名な第一夜。ここで重要な意味を持つのは「百年」である。現実の世界では限られた人しか体験することがない長い時間だが、この短い夢の語り手は最後に「百年はもう来ていたんだな」と気づく。誰にでも同じだけ進む時間が歪んでいる。
重量感のある朗読を聞かせる田中泯は、ある場面では何かを畏怖し、おののくような表情を見せる。「邯鄲」では50年の歳月が...