父のツバキ 命つなぐ 倉吉の大曲さん 「富貴媛」 挿し木で再生

 ツバキを生育することで命の偉大さを改めて知らされた-。倉吉市余戸谷町の大曲圭子さん(61)は、亡き父が埼玉県から持ち帰ったツバキ「富貴媛(ふうきひめ)」を増やすことに成功した。約2年前、雪の重みでツバキの枝が折れてしまったが、なんとか増やせないかと葉と枝を直接土に挿して栽培したところ、葉や枝から根や芽が出てきた。大曲さんは「命をつなぐことができた」と、父の遺志を受け継いだことに安堵(あんど)している。

 大曲さんの父、原田節雄さんは旧満州(現中国東北部)で終戦を迎えた。シベリアに強制抑留された後に帰国し、鳥取県農林局倉吉普及所に勤務。1970年ごろから埼玉県に単身赴任し、倉吉に戻る際に富貴媛を持ち帰った。

 富貴媛は、赤い花びらに薄い白い線が入った大ぶりな花を咲かせるのが特徴。原田さんは12年前に亡くなったが、生前は「(富貴媛は)鳥取県には1本しかない」と希少性を口にしていた。

 毎年、きれいな花を咲かせていたが、2021~22年にかけての降雪で枝が裂けてしまった。22年6月、大曲さんが葉と枝を土に挿してみると、50~60本植えた枝のうち48本が根付き、通常は根付かないと言われる葉も15枚が根付いた。既に芽を出しているものもあり、専門家は「ツバキを葉挿しして根が出るのも芽が出るのも珍しい」と驚いている。

 埼玉県花と緑の振興センターの園芸相談員、加地典子さん(48)は「富貴媛はあまり名前を聞かない品種。写真で見るだけでも豪華な印象で魅力がある。大事に育ててほしい」と期待する。大曲さんは「父は命や植物を大事にしていた。葉も根も全てが命なんだと思い感動した」とツバキの新しい命をつなぐことができたことに胸をなで下ろす。

 ツバキは希望者や公共団体などに寄贈するという。

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