美容院に行けない人も、おしゃれを楽しんでほしい-。外出が困難な高齢者や障害のある人、妊産婦、介護者などを対象に、美容師が施設や自宅に出向いてヘアカットやパーマなどの施術を行う訪問美容。利用者の笑顔を引き出し、心もケアするとして注目されている。鳥取市内の現場を取材した。
会話も楽しむ
「こんにちは。いいお天気ですね」「今日はどんな髪形にしましょうか」-。4月下旬、サービス付き高齢者向け住宅「シニアステージ南吉方」(鳥取市南吉方2丁目、西垣美咲世ホーム長)では、訪問美容サービス「torip」の美容師3人が入居者と笑顔で話しながら、カットやカラー、パーマの準備に取りかかっていた。
この日は入居者8人が予約。待ちきれない様子で順番を見守ったり、顔なじみになって世間話に花を咲かせたりして、和やかな雰囲気を醸していた。
美容師の小塩祐子さん(36)が2カ月に1度、担当する70代女性に「今日はどのくらい切りますか」と声をかけると、女性は「2センチぐらいかなあ」と笑顔で返した。カットが終わり、仕上げのブローを鏡越しに見つめ「すっきりして気持ちがいい」と晴れやかな表情を見せた。
白髪染めのカラーやパーマの施術中には至福の表情で居眠りしたり、車いすに乗ったままシャンプー台で洗髪してもらいながら笑い声を響き渡らせる入居者の姿も。寝たきりの高齢者宅にも訪問している美容師の富本梨香さん(45)は「たわいない話を交えながらカットをすると、うれしそうな表情で華やぐのが何より」とやりがいを明かす。
おしゃれで元気に
訪問サービスを運営し、市内で美容室などを展開するラブアンドピースの西川征和社長(46)は「外出が難しい高齢者や障害のある人に向けて何かできないか」と、5年前から同サービスを始めた。
美容師としての在り方を模索する中、常連客だった高齢女性を美容室に送迎するようになり、事業を立ち上げた。西川社長は「一人でも多くの人に訪問美容を知ってもらい、人生を楽しくするサポートにつながれば」と意義を説く。
施設の一角では、ネイルルームspicA(同市田園町)の前田明美さん(35)のネイルサロンも同時開催。「桜のようなピンク色で華やか。寝転んでいても見るだけでうれしくなるね」と1年前から入居する吉田節子さん(87)の笑顔が花開く。
一緒にネイルカラーの施術を受けた細本田鶴子さん(88)とお互いに見せ合いながら「おしゃれすると元気になれるから」と目を細めていた。