【小川糸 一筆申し上げます】忘れない努力 ドイツのつまずきの石【最終回】

  •  小川糸

 子どもの頃の私は、自分が大人になる頃の未来は当然のごとくもっともっと良くなり、住みやすくなるのだろう、と想像していました。優秀な人たちが、国や世界を動かしているのです。当然、飢餓はなくなり、貧困などのさまざまな問題が解消され、より平和な世界が実現すると、当たり前のように信じていました。

 けれど、今の地球で起きている現実は、半世紀生きてきた中で、もっともひどいと言わざるを得ません。戦争がリアルタイムで起きているのです。特に、ウクライナとパレスチナで今現在起きている現実には、胸が痛みます。一刻も早く、不当な暴力が終えんすることを祈るばかりです。

 ウクライナ戦争もパレスチナ問題も、複雑な要因があるにせよ、第2次世界大戦の際にナチスドイツが犯した過ち、ホロコーストが大きな要因になっているのではないかと思います。

 私は数年間、ドイツの首都、ベルリンに暮らしていました。驚いたのは、その歴史を物語る負の遺産の多さです。街を歩けば、「つまずきの石」を見ないことはあり得ませんでした。つまずきの石というのは、10センチ四方のプレートで、そこにはホロコーストで犠牲になった人の名前、誕生日、死亡した場所など...

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