【香山リカ てのひら診察室】精神科の受診を本人が拒否したら

  •  香山リカ

 精神医療が必要と思われる人が受診のすすめを強く拒否した場合、家族や周囲の人はどうすればよいのだろう。

 札幌ススキノで起きた切断遺体事件で、殺人罪などで起訴されている30歳の女性に対して、事件の5カ月前、父親が精神科受診を勧め、拒否されていたという報道があった。自らも精神科医の父親は、娘の受診の必要性を切実に感じたのだろう。

 このように本人が受診を拒否するとき、以前は家族の依頼で精神科病院のスタッフが自宅を訪れ、強く説得して半ば無理やり病院に連れていくこともあった。いまは人権保護の観点からこういう行為は禁止になっている。私も30年前には看護師らと受診を拒む患者さんの家に行き、「あなたのためにも病院に行った方がいいですよ」などと促していたが、いま思うと予告もせずにいきなり押しかけるということじたい、深刻な人権侵害だ。

 では、いまはどうしているのか。精神保健福祉法では、本人の同意が得られず家族などの同意で入院する医療保護入院に相当する患者さんは、保健所など行政が病院まで移送する制度ができた。ただ、今回のススキノの事件のように、入院ではなくてまずは受診を、などというときにはこの制度は使えない...

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