▽ステレオタイプを風刺
小説が売れない作家のモンクは、ステレオタイプの黒人らしさを求める世間への腹いせに、その風潮に迎合するような作品を偽名で書いた。するとエージェントを通じて出版社から高額のオファーと映画化の話が舞い込み、刊行後は大評判となる。
今年の米アカデミー賞脚色賞に選ばれた「アメリカン・フィクション」(コード・ジェファーソン監督)は、テンポのいいコメディータッチの映画で、題名そのものが米社会への風刺と感じる。その社会に属していないと気付かないポイントがあるにしても、偽名小説を巡るドタバタと並行して、モンクの家族を描く二つのストーリーを溶け合わせており、社会と人間を鋭く問う映画だと思った。
母親の病気、きょうだいとの不和、亡くなった父親の存在など、ジェフリー・ライトが演じるモンクを取り囲む家族間の問題は、時代や場所を問わず私たちにも共感できるものだ。モンクがしばしば見せる渋面にわが身を重ねた。
だが、しんみりと気分を整えて観賞しようとする者をひっくり返らせるラストシーンが待っている。フィクションにフィクションを塗り込めるフィクションとでも言おうか。その自由さに感性を刺激された...