【逍遥の記(28)】想像し、共感し、共苦し続ける

ノーベル文学賞を受けたハン・ガンの作品を読む

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  •  ノーベル賞授賞式でメダルを授与されるハン・ガンさん(左)=2024年12月10日、ストックホルム(聯合=共同)

 2024年秋、精神的なダメージを受けて、ひどい吐き気やめまい、胃痛や頭痛に悩まされていた時期がある。会社を休み、長い時間をベッドで過ごした。その間、韓国人作家ハン・ガンの「別れを告げない」を読んでいた。読むことにも体力がいるから、本当に少しずつしか、読み進められなかった。でも、この小説のおかげで私はなんとか、苦しい時間を乗り越えることができた。

 読むことそのものに痛みを感じる小説なのだが、それなのに引き寄せられ、離れられなかった。病院にも持っていき、待合室で読んでいた。

 心の奥深いところに何かが届けられ、静かに私を癒やした。そんな力が、彼女の小説にはあると思う。

 ■歴史的トラウマ

 アジア人女性初のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンは「歴史的トラウマ」に立ち向かい、小説を紡いできたと評価された。「少年が来る」(2014年)と「別れを告げない」(21年)はその象徴であろう。

 「少年が来る」は1980年の光州事件に材を取った。民主化運動に対する軍の弾圧である。「別れを告げない」は済州島の「4・3事件」を扱った。48年の島民の武装蜂起を契機に起きた国家権力による大量虐殺である。

 この2作は密...

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