ジョージ・オーウェルの「一九八四年」やレイ・ブラッドベリの「華氏451度」、桐野夏生の「日没」といったディストピア小説にお決まりのように出てくるのは思想・言論の弾圧である。新聞、雑誌、書籍が検閲を受け、書き換えを命じられ、最悪、発禁処分となる。自由にものを考え、表現するという人権の核を奪われる悪夢のような時代が、かつて日本にもあった。
この展覧会の会場に来ると、その理不尽さへの恐怖と怒りを追体験する。本展の主題は、そうした弾圧を受けた側のプロレタリア文化運動である。命を脅かされてもなお輝き、やがて消えていった芸術運動。それは熱く、激しかった。
東京・駒場の日本近代文学館で始まった展覧会「プロレタリア文化運動の光芒」(11月25日まで)は、文学が演劇や美術などと連動し、市民を巻き込んで時代のうねりとなっていたことを示している。背景には貧富の差の拡大があり、植民地主義に駆られて戦争に向かう国の動きがあった。
■文学館の原点
「とにかく、たくさんあるんですよ、資料が」「この館が持っているプロレタリア文学関係の資料は本当にすごい」
本展の編集委員は林淑美、中川成美、村田裕和、内藤由直の4人。...